「破産」という言葉を耳にしたとき、あなたはどのようなイメージを持ちますか?

・借金をすべて免除してくれる救済制度?
・すべての財産を失ってしまう厳しい制度?
・社会的な評価が下がる制度?

実は、これらのイメージの多くは誤解や偏見に基づいているかもしれません。
この記事では、「破産手続きとは何か」、「少額管財とは何か」、「同時廃止とはどういうことか」などに関する疑問に詳しくお答えします。誤ったイメージに惑わされて損をしないために、破産手続きについての正確な知識を身につけてもらえればと思います。

自己破産手続きとは

破産手続とは?
破産手続(はさんてつづき)とは、借金などの債務を返せなくなった人(債務者)が、自分の財産を整理して、債権者(お金を貸した人)にできるだけ公平にお金を返すための法的な手続きです。分かりやすく説明すると、破産手続は「お金の整理をするための法律のルール」と考えれば良いでしょう。

■ 破産手続の目的
破産手続の主な目的は、以下の2つです。
1.債務の整理:借金が返せない状況から脱出し、今後の生活を再スタートさせること。手続きが終わると、債務者は残った借金から解放されることができます。
2.公平な配分:借金を回収しようとする債権者がいる中で、債務者の財産を公平に分配し、全ての債権者ができるだけ不利益を被らないよう努めること。

■破産手続の流れ
破産手続には、以下のような基本的な流れがあります。
・申立て:破産手続を希望する債務者が裁判所に申し立てを行います。この時、現在の財務状況や借金の詳細を正直に記載する必要があります。
・破産審問:裁判所は申立てを審査し、破産が適用されるかどうかを判断します。ここで、債務者の財産や借金について詳細な調査が行われます。
・破産宣告:裁判所が破産を認めると、「破産宣告」が出されます。この後、破産管財人という専門家が債務者の財産を管理し、債権者に配分を行います。
・財産の処理:破産管財人は債務者の持っている財産を売却したり、処分したりして、その代金を債権者に分配します。
・免責決定:最後に、債務者が新たなスタートを切れるように、残った借金が免除されることがあります。これを「免責決定」と呼びます。

管財事件と同時廃止

破産手続には大きく分けて「管財事件」と「同時廃止」という2つの方式があります。
管財事件は「通常管財」と「少額管財」に分類されますが、個人の破産では「通常管財」になることは稀少です。
裁判所は、債務者がどれだけの財産を持っているかなどを総合的に判断し、「少額管財」か「同時廃止」のいずれかを選定します。

少額管財とは

少額管財とは、破産手続を行う際に、高額な財産を持つ方(資産調査型)やギャンブルなどによる借金の原因に問題がある方(免責調査型)に対して、申立代理人とは別の弁護士が裁判所によって「破産管財人」として任命され、破産者の財産や借金の理由を調査する手続きです。
少額管財は、同時廃止と比較すると手続きが複雑になり、手続きが終了するまでには、裁判所への申立てから約3ヵ月かかります。
また、原則として裁判所に1回、及び打ち合わせのために破産管財人の事務所にもう1回お越しいただく必要があります(東京地方裁判所の場合。裁判所によって運用に違いがあります)。
なお、債権者集会や破産管財人との面接には、代理人である弁護士が同席することが一般的ですので、安心してご利用いただけます。

同時廃止とは

同時廃止は、債務者に換価できる財産がほとんどなく、かつ債務免除(免責)に支障がないケースにおいて、破産手続の開始と同時に終結する簡易な手続方式です。
通常、申立てから約2ヶ月程度で完了し、裁判所への出頭も原則1回で済むため、少額管財と比較してより負担の少ない制度となっています(ただし、具体的な手続は各裁判所によって異なる場合があります)。

少額管財と同時廃止の違い

■少額管財と同時廃止の主な違いについて
・少額管財と同時廃止の主な違いは、債務の額や財産の状況にあります。少額管財は、債務が500万円以下で、なおかつ一定の財産が存在する場合に適用されます。一方、同時廃止は、債務が少なく、債務者に財産がないケースで選ばれるため、手続きがより簡略化されます。
・費用の観点から見ると、少額管財の場合には破産管財人に20万円の報酬を支払わなければならず、その分の費用が発生します。それに対して、同時廃止の場合は破産管財人の報酬が不要なため、依頼者にとって経済的な負担が軽減されます。
・少額管財の手続きは、破産手続の開始申立からすべての手続きが完了するまでに約3~4か月かかります。一方、同時廃止の場合は、破産手続の申立と同時に破産が決定するため、はるかに短期間で手続きが終結します。これは、財産がほとんどないため換価処分が不要だからです。

少額管財と同時廃止のメリット

少額管財と同時廃止のメリットについてそれぞれ説明します。

少額管財のメリット

■少額管財の主なメリットについてご説明いたします。

少額管財の最大のメリットは、費用が安いことです。ここで述べる「費用」とは、弁護士費用ではなく、破産手続きに伴う具体的な費用、つまり破産管財人への報酬を指します。破産管財人の報酬は、破産者が自分で用意して支払うことになります。通常の管財の場合、破産管財人の報酬は最低でも50万円ですが、少額管財ではほとんどの場合、20万円です。このため、少額管財の費用は通常の管財に比べ、少なくとも30万円以上も安くなると言えるでしょう。
もう一つのメリットは、「処理が迅速である」という点です。少額管財では、破産申立てから免責決定までの期間が大体3か月で済みますが、通常の管財では6ヶ月から1年、場合によっては1年以上かかることもあります。
また、管財事件では、本人が破産管財人と面会したり、裁判所で行われる債権者集会に出席する必要がありますが、少額管財の場合、破産管財人との面談は1、2回、債権者集会も1回程度で済むのが一般的です。そのため、負担は少なくて済みます。これに対して、通常管財では、さらに多くの面会が必要になる可能性が高いです。

同時廃止のメリット

■同時廃止の主なメリットについてご説明いたします。

・同時廃止事件の一つの利点は、手続きにかかる費用が管財事件に比べて安くなることです。管財事件の場合、裁判所が中立的な立場の弁護士である管財人を指名します。この管財人に対しては、最低でも20万円を超える引継ぎ予納金(自己破産手続きで裁判所に支払う費用)が必要となります。しかし、同時廃止事件に分類されると、そのような金銭的な負担は発生しません。
・もう一つの利点は、手続きにかかる負担が少ないことです。管財事件では、調査が必要となるため、破産手続きが完了するまでに時間がかかり、郵便物を管財人を通じて受け取る必要があったり、管財人との面談のために時間を取られたりすることがあります。しかし、同時廃止事件の場合は、これらの負担がなくなります。
※このように、同時廃止にはいくつかの利点があります。しかし、債権者から免責に反対する意見が出る可能性がある場合など、中立的な立場から調査し、意見を述べる管財人がいないと、破産手続きが終了し免責を得ることが難しくなる場合もあります。破産手続きは免責を得るためのものであるため、ゴールを見据えて同時廃止と管財事件のどちらで申立てを行うべきかを慎重に選ぶ必要があります。

少額管財と同時廃止の注意点

少額管財と同時廃止の注意点についてそれぞれ説明します。

少額管財の注意点

■少額管財を希望する方は、以下の点に注意することが重要です。

・少額管財事件が利用できない裁判所もある
少額管財事件は法律で明文化された制度ではなく、破産法の枠組み内で債務者が自己破産を行いやすくするために東京地方裁判所によって創出された運用方法です。これは一部の地方裁判所によって制定されたものであり、全ての裁判所で同様に適用できるわけではありません。

・地域によって手続きの名称が異なる可能性がある
同様の運用方法が行われている場合でも、その手続きの名称は地方裁判所ごとに異なる可能性があります。“少額管財事件”という名称でなかったり、類似の制度が異なる名前で運用されていることもあるため、注意が必要です。

・弁護士による申立てが必須
少額管財事件としての手続きを進めるには、弁護士が代理人として地方裁判所に申立てを行う必要があります。もし個人や司法書士が申立てを行った場合、注意が必要です。管財事件になる可能性がある場合、通常の管財事件として処理されることになってしまいますので、必ず弁護士に依頼することが推奨されます。

同時廃止の注意点

■同時廃止を希望する方は、以下の点に注意することが重要です。

〇適用条件の確認
同時廃止が認められるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。主な条件として、換価できる財産がほとんどないこと、安定した収入があること、債務総額が少額であることなどが挙げられます。これらの条件を満たさない場合、通常の破産手続きを行う必要があります。

〇免責不許可事由の確認
破産手続きにおいて最も重要なのは、免責が認められるかどうかです。以下のような事由がある場合、免責が認められない可能性があります。
・浪費や賭博による債務
・詐欺的な行為
・破産を繰り返している
・詐欺破産や破産法違反
・裁判所への虚偽申告

破産手続の流れと所要期間

ご説明した通り、破産手続きには少額管財と同時廃止の2つの方法があります。
少額管財と同時廃止では、手続きの流れや完了までの所要時間に違いがありますので、それぞれについて詳しくご説明いたします。

少額管財の流れと所要期間

【少額管財の流れと所要期間】
少額管財の手続きの流れと各手続きにかかる期間の目安は以下の通りです。(弁護士事務所によって、着手金や報酬金などが必要になります。なお、費用を分割して積み立てる場合、手続きに移るタイミングが異なることがあります。)

・弁護士に依頼:1日~2日程度
・受任通知の送付:即日から3日程度
・必要書類の収集:約1ヶ月
・負債・財産の調査:1~2ヶ月
・申立書類の準備:約1ヶ月
・申立てから破産手続開始決定まで:約1週間
・破産手続き終了まで:約2~3ヶ月
・債務者が平日に動く日:弁護士と管財人の事務所に出向く日は原則平日1日。弁護士と裁判所に出向く日は原則平日1日。

※少額管財は、管財事件の一つであり、一部手続きを簡素化することで費用を削減することを目的としています。通常、申立から免責決定確定までに6~8ヶ月かかるところを、少額管財では3~4ヶ月に短縮できるのが特徴です。
※少額管財を利用するためには、弁護士に破産申立ての代理を依頼する必要があります。また、地域によっては少額管財を取り扱っていない裁判所もあるため、事前に確認することが重要です。”

同時廃止の流れと所要期間

【同時廃止の流れと所要期間】
同時廃止の手続きの流れと各手続きにかかる期間の目安は以下の通りです。(弁護士事務所によって、着手金や報酬金などが必要になります。なお、費用を分割して積み立てる場合、手続きに移るタイミングが異なることがあります。)

・申立てから同時廃止の判断まで、約1~2ヶ月を要します。
・同時廃止の決定が下されると、免責決定まで約2ヶ月待つ必要があります。
・免責審尋期日には破産者本人が出席し、これによって実質的に破産手続きが完了します。
・免責許可決定は約1ヶ月で確定し、手続きは終了します。
・債務者が平日に動く日:弁護士と裁判所に出向く日は原則平日1日。

※同時廃止の場合、財産の調査や換価処分が不要なため、破産手続きはスムーズに進行します。このため、通常は6ヶ月から9ヶ月程度で手続きが完了することが一般的です。

破産手続の概要

破産手続を行うと、借金が免除されるという大きな利点があります。その一方で、いくつかの制限や制約も伴います。
具体的には、債務の返済原資とするために保有財産が換価されることや、破産手続中は特定の職種への就業が制限されるなどの制約があります。
ただし、実際の生活への影響は想像より軽微かもしれません。例えば、東京地方裁判所では99万円以下の現金は手元に残すことができます。また、裁判所によって運用は異なりますが、20万円以下の預貯金や自動車、日常生活に必要な家具・電化製品については、通常、換価対象から除外されます(ただし、ローン残債のある物件は除きます)。

破産手続きを弁護士に依頼するメリットとデメリット

破産手続きを弁護士に依頼することには、様々なメリットとデメリットがあります。以下にそれぞれのポイントを整理しました。

破産手続きを弁護士に依頼するメリット

【メリット】
・督促や催促の停止:弁護士に依頼することで、債権者からの厳しい督促や催促が止まります。これにより、精神的な負担が軽減され、安心して手続きを進めることができます。
・手続きの煩雑さを軽減:自分で手続きを行う場合、多くの書類や手続きが必要ですが、弁護士に依頼することでその準備や遂行に関する手間を大幅に省くことができます。
・手続き上の漏れを防止:弁護士の専門知識によって、債権者の把握漏れなどの手続き上のミスを防ぐことができ、安心して進めることができます。
・少額管財事件の活用:破産手続きが少額管財事件に該当する場合、弁護士が申し立てを行うことで予納金額を抑えることができる可能性があります。
・裁量免責の取得:免責不許可事由がある場合でも、弁護士を通じて裁量免責を得やすくなるため、再スタートへの道が開けることがあります。
・法律事務所が窓口に:債権者とのやり取りを法律事務所が代行してくれるため、負担が減り、トラブルを避けることができます。
・他の債務整理の提案:破産だけでなく、自己破産以外の債務整理の方法も提案してくれるため、自分に最適な解決策を見つける手助けを得られます。

破産手続きを弁護士に依頼するデメリット

【デメリット】
・弁護士報酬が必要:弁護士に依頼すると報酬が発生します。弁護士報酬は法律事務所によって異なるため、費用が気になるポイントとなります。依頼する際には、事前にホームページなどで料金体系を確認し、自分にとって「安心できる弁護士・法律事務所」を選ぶことが求められます。
※このように、弁護士に破産手続きを依頼することには多くの利点がありますが、費用がかかる点も考慮する必要があります。自分の状況をよく考え、最適な選択をすることが重要です。

破産手続きを自分で行なおうとしている方へ

「弁護士を介さずに自分で自己破産の手続きができるのでは?」
このような疑問をお持ちの方は少なくないと思います。
確かに、法律上は個人で破産手続きを行うことは可能です。しかし、実際には専門的な法律知識や経験が必要となる複雑な手続きであり、個人で行う場合には様々なリスクが伴います。
弁護士費用を節約したいという気持ちは理解できますが、手続きの不備や認識の誤りにより破産が認められないケースや、必要以上に時間がかかってしまうことも少なくありません。結果として、最初から弁護士に依頼したほうが、時間的にも精神的にも負担が少なくなる場合が多いのです。
ご自身の状況や経済的な事情を踏まえ、弁護士への相談を含め、慎重に検討することをお勧めします。

破産手続を自分で行うメリット

【破産手続きを自分で行うメリット】
自己破産を個人で申し立てる最大のメリットは、弁護士費用が不要となる経済的な利点です。一般的に弁護士への依頼費用は決して安くはないため、費用面での負担を抑えたい方にとっては魅力的な選択肢となります。
また、信頼できる弁護士を探すための時間や労力を省くことができ、自分のペースで手続きを進められるという利点もあります。
ただし、これらのメリットは、法律の知識や手続きについて十分な理解がある方に限られます。費用削減を優先するあまり、手続きの不備により申立てが認められないなどのリスクも考慮する必要があります。

破産手続を自分で行うデメリット

【破産手続きを自分で行うデメリット】
・書類の準備や裁判の対応など、すべてを一人で行うため、大きな負担がかかります。
・弁護士に依頼する場合に比べ、手続きにかかる時間が長くなることがあります。
・弁護士を雇うよりも裁判所に支払う費用が増える場合もあります。
・債務返済が難しいのに、債権者からの督促が止まらないという状況になることがあります。
・免責が認められる可能性が減少することがあります。
このように、デメリットがメリットを大きく上回ることが明らかです。実際、多くの人々は弁護士に依頼して破産手続きを行っています。特別な理由がない限り、自分で手続きを行う必要はないと言えるでしょう。

破産手続きを弁護士に任せると費用が安く済むケース

自力で破産手続きを進めるよりも、弁護士に依頼する方が費用を抑えられることがあります。その理由は、自分で手続きを行う場合、少額管財や同時廃止ではなく、通常管財にされるリスクが高まるからです。通常管財の場合、裁判所に支払う費用はおおよそ50万円以上が一般的です。
反対に、弁護士に依頼して破産手続きを行うと、少額管財や同時廃止になる可能性が高くなります。少額管財となった場合でも、裁判所への費用は20万円程度で済むことが多く、同時廃止の場合はほとんど費用が発生しません。
そのため、弁護士費用がかかるとしても、通常管財にかかる費用と比較すると、結果的に安くなることが期待できるのです。

弁護士に破産手続きを依頼すると督促が止まる

弁護士に破産手続を依頼すると、弁護士から債権者へ受任通知を送付することで、通常の借金の返済要求や督促を止めることができます。
これにより、それまでの返済額を弁護士費用の支払いに回すことが可能となるため、新たな経済的負担を負うことなく、破産手続を進めることができます。
(注)ただし、支払督促や民事訴訟などの裁判上の請求は、受任通知では止めることができません。

最後に

この記事では、以下のテーマについて詳しく解説しました。「自己破産手続きとは何か」、「管財事件と同時廃止の違い」、「少額管財と同時廃止の利点」、「少額管財と同時廃止における注意点」、「破産手続きの進行方法と期間」、「破産手続きの全体像」、「破産手続きを弁護士に依頼することのメリットとデメリット」、「自己破産を自分で行おうとしている方へのアドバイス」、「弁護士に依頼することで費用が抑えられる場合」、「弁護士に依頼すると督促が停止する仕組み」などです。
自己破産の手続きは非常に複雑で、裁判所からの「免責(許可)」が得られないこともあります。当法律事務所では、法人の破産から個人の自己破産手続きまで、幅広く対応しており、自己破産を詳しく知りたい方、自己破産を考えている方、弁護士を探している方は、ぜひお気軽にご相談ください。相談料は一切かかりませんので、有意義な相談の時間をお過ごしください。