借金に悩む多くの方が選んでいる「任意整理」ですが、誤った知識を持ってこの手続きを行うと、トラブルを招くことがあります。任意整理は債務整理の中でも比較的簡単な手続きで、自己破産や個人再生を避けたい、家族や職場に知られたくないといった理由から、軽い気持ちで選択する方もいます。
この記事では、任意整理に関してよく検索される情報を以下の項目でまとめています。「任意整理とは」「任意整理ができる債務」「任意整理のメリット」「任意整理のデメリット」「任意整理が選ばれる理由」「任意整理があてはまる条件」「任意整理が難しいケース」「任意整理を失敗するケース」「任意整理の費用相場」などです。
任意整理を失敗し、余計な弁護士費用を発生させないために、ぜひご覧いただき、情報を活用していただければ幸いです。
任意整理とは
目次
任意整理とは、消費者金融や銀行、カード会社といった債権者と裁判を行わずに直接交渉を行い、毎月の返済負担を軽減してもらう方法です。この手続きでは、主に将来の利息の免除や返済回数の見直しを通じて、現状の返済額を返済可能な金額に減額することを目指します。また、過払い金が発生している場合には、過去の支払いを再計算し、違法に徴収された金利分との相殺や過払い金の返還を求めることができます。
【主な交渉内容】
・将来の利息を免除してもらう
・経過利息を免除してもらう
・遅延損害金を免除してもらう
・返済期間を延長する
・毎月の返済額を無理のない金額に調整する
【過払い金が発生している場合】
・これまでの取引を再計算し、違法金利分を明確にする
・過払い分を借金残高から差し引く
・過払い金の返還を請求する
任意整理ができる債務
任意整理は、借り手(債務者)と貸し手(債権者)が自由に話し合いを行う形で進められます(契約自由の原則に基づくものです)。そのため、私的な借金に関しては原則として全てを交渉の対象にすることが可能です。
しかしながら、任意整理を通じて借金を解決するためには、債権者との合意が必要不可欠です。債権者は金銭を貸し出し、その利息で生活を成り立たせているため、任意整理が彼らにとって利益がないと感じられる場合、合意には至らないことが多いです。また、減額率が低い債権に関しては、債務者にとってコストと効果のバランスが悪いため、任意整理はあまり推奨できません。
この観点から、以下のような借金は任意整理で解決するのが難しい場合が多いと言えます。
・担保が設定されている借金(担保権が実行されればすぐに回収可能)
・訴訟が提起され、既に判決が確定している借金(強制執行により迅速な回収が見込まれる)
・利息が低い借金(減額効果が少ない)
・借入から間もない借金(債権者側が同意に応じにくい)
任意整理のメリット
債務整理の方法として人気の高い任意整理には、数多くのメリットがあります。主な特徴を以下にご紹介します。
・弁護士や認定司法書士に依頼すると、督促が停止します。
・利息がカットされ、返済総額を減らすことが可能です。
・完済までの計画を立てやすくなります。
・債権会社を選んで整理することができます。
・資産を手放さずに借金を減額することができます。
・第三者に知られるリスクが低くなります。
・過払い金を請求することで、借金を大幅に減少させる可能性があります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
弁護士や認定司法書士に依頼すると、督促が停止します
弁護士や認定司法書士に任意整理を依頼すると、専門家から債権者に受任通知が発行され、債務者への督促行為は原則として中止されます。
ただし、督促が完全に止まるまでには通常1週間程度を要します。その間に債権者から連絡があった場合は、「○○法律事務所に任意整理を依頼しましたので、今後の連絡は全て事務所を通してお願いします」と簡潔に伝え、それ以上の会話は控えることをお勧めします。
また、督促停止の効果は任意整理の対象となっている借入れに限定されます。その他の債務に関する督促は継続されますのでご留意ください。
利息がカットされ、返済総額を減らすことが可能です
任意整理の大きな魅力として、将来発生する利息の減額・免除が挙げられます。
これは元金自体を減らすものではありませんが(過払い金が発生している場合を除く)、返済の大部分を利息が占めているケースでは、全体の返済額を著しく軽減できる可能性があります。
ただし、金融機関との話し合いが基本となるため、すべての利息が必ずしも免除されるとは言い切れません。そのため、実際の減額幅は交渉結果によって変わることを理解しておく必要があります。
完済までの計画を立てやすくなります
毎月の返済をしているにもかかわらず、支払いの大半が利息に消えていくという悩みを抱えている方は少なくありません。
そんな状況を改善する方法として、任意整理という選択肢があります。任意整理を利用すると、利息が原則として免除され、元金のみを3年から5年(36回〜60回)で分割返済することができます。これにより、返済計画が立てやすくなり、債務完済への道筋が明確になります。
債権会社を選んで整理することができます
自己破産や個人再生の手続きでは、特定の債権者への返済を優遇する「偏頗弁済」が法律で禁止されています。つまり、すべての借金を一括して手続きする必要があり、個別に選んで整理することはできません。
例えば、以下のような債務も例外なく手続きの対象となります。
・勤務先や親族からの借入れ
・連帯保証人が付いている借金
・住宅ローンや車のローン
これに対し、任意整理では、どの借金を整理の対象とするか、ある程度柔軟に選択できます。
・勤務先や親族からの借り入れは避ける
・連帯保証人への影響を避ける
・住宅や車の所有権を維持する
といった対応が可能となります。
資産を手放さずに借金を減額することができます
債務整理の方法によって、資産への影響は大きく異なります。
自己破産を選択した場合、不動産や自動車などの重要資産は原則として手放さなければなりません。
個人再生の場合も、住宅ローンの支払いが完了している自宅を所有していると、返済計画において支払額が増加する可能性があります。
一方、任意整理では、住宅ローン以外の債務のみを対象とすることで、自宅を保持したまま債務問題を解決できるメリットがあります。
第三者に知られるリスクが低くなります
個人再生や自己破産では官報(国が発行する公的な機関紙)への掲載が必要となりますが、任意整理にはそのような公表義務がありません。
さらに、手続きを担当する弁護士や認定司法書士には法律で守秘義務が課せられているため、依頼者の情報が外部に漏れることはありません。
また、自己破産や個人再生では各種書類の準備や家計簿作成に家族の協力が必要となることが多いのですが、任意整理ではそういった協力を必要としません。
このように、任意整理は他の債務整理方法と比べて、手続きの存在を家族や職場に知られる可能性が極めて低い解決方法だと言えます。
過払い金を請求することで、借金を大幅に減少させる可能性があります
借入時に法定金利を超えて支払った利息分を「過払い金」と呼び、これは2010年以前に消費者金融やクレジットカード会社から借入をした方に発生している可能性があります。
任意整理を行う際、このような過払い金が確認された場合、返還請求を同時に進めることができます。過払い金が返還されると、現在の借金額が大きく減少したり、場合によっては借金額以上の金額が戻ってくることもあります。
これは、かつてグレーゾーン金利(法定金利を超える金利)が認められていた時期に、本来支払う必要のなかった利息分を支払っていたためです。
任意整理のデメリット
任意整理は多くの方が選択する債務整理方法ですが、以下のような注意点があります。
・信用情報機関に任意整理の情報が登録され、新規借入や各種契約に影響がでます
・過払い金がない限り借金の元金は減らない
・返済期間を短縮する場合、毎月の支払額が現在より増加することがあります
・安定した収入がない場合、債権者が任意整理に同意しないことがあります
・債権者の合意がなければ手続きができません
これらのデメリットは、借金問題の解決方法を選ぶ上で重要な判断材料となります。以下、それぞれの項目について詳しくご説明いたします。
信用情報機関に任意整理の情報が登録され、新規借入や各種契約に影響がでます
任意整理を行うと、信用情報機関に情報が登録され、「ブラックリスト」に載ることになります。任意整理の最大のデメリットは、まさにこのブラックリストに登録されることです。ブラックリストに載ると、新たに消費者金融から借り入れをしたり、クレジットカードを利用または発行したり、住宅ローンや自動車ローンなどの新規借り入れが難しくなると思ってください。ただし、これは任意整理だけでなく、個人再生や自己破産のような他の債務整理の場合でも同様です。
以下は、債務整理ごとの信用情報機関に登録される期間です。
・任意整理:借金が完済された後も、情報は5年間保存されます。
・個人再生:日本には3つの信用情報機関がありますが、主要な金融機関が加盟している全国銀行個人信用情報センター(KSC)では、情報が7年間保持されます(2022年11月4日以前の案件は10年間)。
・自己破産:KSCに記録され、その情報は7年間保持されます(2022年11月4日以前の手続きは10年間)。
過払い金がない限り借金の元金は減らない
自己破産を選択すると、すべての借金に対する返済義務が免除されます。また、個人再生では借金の元本を大幅に圧縮することが可能です。一方、任意整理では利息が減額されるだけであり、過払い金が存在しない限り「借金そのものが減る」わけではありません。
利息カットにより全体の返済額は確かに減少しますが、借入状況によっては大きな効果が得られないケースもあるため、注意が必要です。
返済期間を短縮する場合、毎月の支払額が現在より増加することがあります
任意整理を行うことで、利息をカットし、返済総額を減少させることが可能です。ただし、任意整理後は原則として3〜5年内に返済を完了する必要があります。通常の返済時には月々の支払い額をある程度自分で調整できることが多いですが、任意整理を行った後はその自由度が制限されます。
例えば、元本300万円の負債を利息を含めて月3万円で返済していた場合、任意整理を行うと300万円を3年で返済するには月約8万4000円、5年では月5万円が必要になります。普通に返済している場合と比べて、返済期間が短縮され、返済総額も大幅に減少しますが、その分月々の負担が大きくなる可能性があります。
安定した収入がない場合、債権者が任意整理に同意しないことがあります
任意整理を行った場合、元金は3〜5年で返済しなければならないため、安定した収入が必要です。収入がない、または少ない場合は、債権者が任意整理に応じない可能性が考えられます。一方で、自己破産では収入に関する制限がなく、収入が少ない方や無収入の方は、この選択肢を検討することをお勧めします。
債権者の合意がなければ手続きができません
自己破産や個人再生は、特定の条件を満たせば裁判所によって認可される可能性があります。特に自己破産は、裁判所の許可を得るためのハードルがそれほど高くありません。一方で、任意整理は債権者の同意が必要であり、その合意が得られない場合には手続きを進めることができません。たとえ収入などの条件を満たしていても、債権者の方針によって任意整理に応じないこともあります。
任意整理が選ばれる理由
債務整理の選択肢として、多くの方が任意整理を選んでいます。その魅力と特徴について、分かりやすく説明していきましょう。
債務整理の中で比較的費用が安い
債務整理の方法の中で、任意整理は最も低コストな選択肢と言えます。弁護士や認定司法書士に依頼する場合、着手金・報酬金を含めても約5万円程度で手続きが可能です。これは個人再生や自己破産が約50万円前後必要となることと比べると、かなり経済的な解決方法だと言えるでしょう。
手続きが比較的簡単
任意整理は、自己破産や個人再生と比べて手続きが比較的シンプルであり、依頼者が準備する必要のある書類はほとんどありません。弁護士や認定司法書士に依頼すれば、和解成立を待つだけで済みます。
また、任意整理の着手金や報酬を一度に支払うことが難しい場合でも、債務の支払い猶予期間(通常3〜6ヶ月)を利用して分割払いができる事務所も多くあります。このように、依頼者の経済状況に応じて柔軟な支払いプランを提供する法律事務所が増えています。
周囲に知られにくい
任意整理は、自己破産や個人再生と比較して、周囲に知られにくい債務整理の方法です。自己破産や個人再生を行う際には、依頼者が会社に頼んで用意する書類や家族に頼んで準備する書類が必要になることがあります。このとき、なぜその書類が必要なのかを尋ねられることがあり、その結果として情報が漏れる可能性があります。また、官報に名前や住所が掲載されるため、任意整理に比べて周囲に知られるリスクが高いのです。
一方で、弁護士や認定司法書士には守秘義務があるため、仮に家族や依頼者が勤める企業の代表者が質問をしても、情報が漏れることはありません。したがって、任意整理による周囲に知られるリスクはほとんどないと言えます。
債権者を選べる
任意整理の最大の特徴は、自己破産や個人再生と違って、債務整理の対象となる債権者を選んで交渉できる点にあります。たとえば、住宅ローンや自動車ローンは通常通り支払いを続けながら、返済が厳しい借入金だけを交渉の対象とすることができます。このように、必要な債務だけを選んで整理できる柔軟性が、任意整理の大きな利点となっています。
任意整理がダメなら個人再生か自己破産と考える
借金返済に苦しむ際に債務整理を考える場合、最初に任意整理の可能性を確認し、難しいと判断した場合は個人再生や自己破産を検討します。任意整理が適用できるかどうかを判断するためには、毎月の収入から生活に必要な費用を計算し、残った金額で返済が可能かどうかを確認することが重要です。借金を返すことは基本的な義務であるため、もし任意整理によって返済ができるにもかかわらず、毎月の返済額を減らしたいという理由だけで個人再生や自己破産を希望する場合、裁判所はそれを認めないことがあります。
任意整理ができる条件
任意整理が可能かどうかを判断するために、まず以下の条件に該当しているか確認しましょう。
・借金の総額が比較的少なく、安定した収入が期待できること
・過去に借金を返済した実績があること
・原則として3~5年以内に全額返済できる見込みがあること
・月々の返済額が手取り収入の2割から3割程度に収まること
さらに、任意整理は債権者との交渉によって合意を得るプロセスであるため、債権者に対して今後も返済を続けて完済する意志をしっかり伝えることが重要です。
それでは、具体的な事例をもとに任意整理が可能かどうかを見ていきましょう。
アルバイトやパートでも任意整理は可能
収入があればアルバイトやパートタイムの勤務でも、任意整理を行うことが可能です。ただし、アルバイトやパートは定職にあたらないため、毎月一定の収入が得られるとは限りません。シフトによっては、収入が減少する月も生じる可能性があります。このような状況でも、毎月一定額の返済を継続する必要があります。
任意整理では、2回以上返済ができない場合、残りの借金を一括で返済することに合意するのが一般的です(これを「懈怠約款」と呼びます)。収入が変動する月がある場合には、事前に貯金を行い、返済が滞らないようにすることが重要です。
【以下の点に注意が必要です】
・アルバイトやパートは収入が変動しやすく、シフト制による月収の増減があります。
・任意整理では、毎月一定額の返済が必要となります。
・返済を2回以上遅延すると、「懈怠約款」により残債務の一括返済を求められる可能性があります。
【収入が不安定な方は、以下の対策をお勧めします】
・返済予定額を事前に貯金しておく
・収入の良い月に余裕を持って貯蓄する
・安定した返済計画を立てる
このように、収入の変動に備えた資金管理が重要になります。
年金受給者でも任意整理できる
年金受給者でも任意整理を行うことが可能です。ただし、受給した年金の範囲内で生活費と返済額をしっかりと確保する必要があります。一部の債権者は、年齢が高めであることを理由に、返済分割の期間を3年以下に設定することがあるため注意が必要です。分割期間が短くなると、月々の返済額が増加してしまうため、状況によっては任意整理以外の債務整理の方法を検討することも必要になるかもしれません。
【以下の点にご注意ください】
・生活費と返済金は、年金支給額の範囲内でやりくりする必要があります。
・高齢の方の場合、債権者から返済期間を3年以内などに短縮するよう求められることがあります。
・返済期間が短いと毎月の支払額が大きくなるため、状況に応じて個人再生や自己破産など、他の債務整理方法もご検討ください
このように、まずはご自身の収支状況を踏まえ、最適な解決方法を選択することが大切です。
相続した債務も任意整理できる
家族が亡くなった後、残された借金を相続した場合でも任意整理による解決が可能です。 しかし、相続財産が借金のみの場合や、既に法的手続きが始まっている場合は、任意整理以外の方法が適している可能性があります。 相続した借金の処理方法について迷った際は、一人で抱え込まず、早めに弁護士へ相談することをお勧めします。
保証人付きの借金も任意整理できる
保証人がいる場合でも任意整理は可能ですが、その際には注意が必要です。基本的に、保証人がついている借金を任意整理すると、保証人にその借金の残額が一括で請求されることになります。
任意整理では債権者を選択できるため、保証人に迷惑をかけたくない場合は、保証人がついている借金を除外し、他の借金のみを整理することもできます。
もしどうしても保証人がついている借金を返済できない場合は、保証人と協力して任意整理を行うことも可能です。しかし、その場合、保証人もブラックリストに載ってしまい(信用情報機関に事故情報が記録されるため)、保証人には大きな影響が及びます。
したがって、やむを得ず保証人がいる借金を任意整理する際は、事前に保証人に事情を説明し、同意を得ることが重要です。
【任意整理では、どの債権者を対象とするか選べるため、以下のような対応が可能です】
・保証人付きの借金を除外し、他の借金だけを任意整理する
・保証人と共同で任意整理を行う(ただし保証人も信用情報機関に記録が残る)
【特に保証人付きの借金を任意整理せざるを得ない場合は、以下の点に注意が必要です】
・事前に保証人への十分な説明
・手続きの進め方についての事前相談
このように、状況に応じて適切な方法を選択することが重要です。
任意整理は何度でもできる
債権者が同意すれば、任意整理は何度でも行うことができます。しかし、同じ債権者に対して二度目の任意整理を行う際には、交渉がさらに難しくなる可能性が非常に高いです。これは、一度の約束を守れなかったことにより、債権者の信頼を失うリスクがあるからです。
もし二度目の任意整理が受け入れられた場合でも、借金の減額は認められず、返済期間を延ばすか毎月の返済額を減らすことのみが可能になります。初回の任意整理よりもハードルは高くなりますが、「自己破産や個人再生を選択して返済ができなくなるよりはマシ」と考え、二度目の任意整理に応じてくれる債権者もいるかもしれません。
任意整理が難しいケース
任意整理の条件を満たさない場合とは、具体的にどのような状況を指すのでしょうか?ここでは、条件をクリアできていないケースとその対策について解説します。
・一度も返済を行っていない
・借金の総額が非常に大きい
・割賦払いで商品を購入している
・生活保護を受給している
・債務者自身が交渉を行う場合
・金融会社の方針により任意整理に応じない
これらのケースにおいては、別の解決策を検討しなければならない必要もあります。
それでは、具体的な事例をもとに任意整理が可能かどうかを見ていきましょう。
一度も返済を行っていない
借金を一度も返済していない場合、債権者が任意整理に応じる可能性は低いです。これは、債務者が返済できない状況を知りながらも隠して借金をしたと考えてしまうからです。任意整理の交渉では、債権者(貸し手)は債務者(借り手)の返済能力や返済の意志を重視します。そのため、一度も返済を行っていない借金に関して任意整理を考える際には、一定期間返済実績を作ることが必要かもしれません。
ただし、借入申し込み時には完済の意志を持っていたが、病気や失業などのやむを得ない事情で返済が難しくなった場合、一度しか返済していない場合でも債権者が任意整理を受け入れてくれることもあります。
【債権者は任意整理の判断において、以下の2点を特に重視します】
・返済能力の有無
・返済意思の確実性
【以下のようなケースでは、返済実績が少なくても任意整理に応じてもらえる可能性があります】
・借入時には返済の意思があった
・病気や失業など、予期せぬ事情により返済が困難になった
このように、返済不能に至った経緯が明確で正当な理由がある場合は、債権者との交渉の余地が生まれます。
借金の総額が非常に大きい
任意整理を行い将来の利息をカットするだけでは、借金を大幅に減らすことはできないため、借金の総額が非常に大きい場合、任意整理には適さないと考えられます。毎月の収入から生活費を差し引いて出した金額が任意整理後の返済額に足りない場合や、年収を超える借金を抱えている場合は、個人再生や自己破産の手続きを検討することをおすすめします。
割賦払いで商品を購入している
割賦払い(ローン)で購入した商品に関しても、任意整理を行うことは可能です。しかし、その場合、購入した商品を債権者に返還しなければならないリスクが伴います。通常、ローンで購入した商品には所有権留保が適用され、これは代金全額の支払いが完了するまで所有権が債権者に留保されることを意味します。
ローン契約に基づく債務を任意整理する際には、原則的に債権者から商品の返却を求められることになります。特に、自動車やパソコン、ブランド品の時計やバッグなどの高額商品については、返却要求が高まりやすいです。一方で、経年劣化によって価値が大きく下がった商品や、クレジットカードのリボ払いで購入したものについては、返却を求められない場合も存在します。
もし、ローンで購入した車やパソコンを業務で使用しており、任意整理を希望しつつも商品を失いたくない場合は、その事情を債権者に説明し、その状況を考慮に入れた合意を模索することも一つの選択肢となります。
生活保護を受給している
生活保護を受けている場合、自己破産を検討することが一般的であり、これにより借金の返済が免除されることがあります。
生活保護は、憲法の生存権に基づき、生活に困窮した人が最低限の生活を維持するために支給されます。このため、生活保護の受給者がその支給された資金を借金の返済に充てることは適切ではないと考えられています。
債務者自身が交渉を行う場合
任意整理はご自身でも可能ですが、以下の理由から任意整理は弁護士や認定司法書士に依頼することをお勧めします。
・債権者との交渉において、個人からの申し出では相手にされないケースが多々あります。
・利息制限法に基づく計算の再実施が必要となりますが、その作業は専門的な知識を要します。
・法的な知識不足により、本来得られるはずの権利を十分に主張できず、結果として不利な条件での解決を余儀なくされる可能性があります。
このように、確実かつ公平な解決を目指すためには、弁護士や認定司法書士による専門的なサポートが不可欠といえます。
金融会社の方針により任意整理に応じない
珍しいケースではありますが、一部の貸金業者は任意整理に応じない方針を掲げています。過去に融資を行っていたものの、現在は倒産して債権回収のみに特化している業者は、任意整理を受け入れないことが多いです。また、債権者が金融機関や貸金業者でなく、個人(家族や友人)である場合も、債務者との関係や過去の返済履歴に応じて、債権者の経済的立場や感情によって交渉が難航したり、拒否されることがあります。任意整理が受け入れられない場合には、個人再生や自己破産を考慮することになります。
任意整理を失敗するケース
任意整理は、債務整理の手段の中では手続きが比較的シンプルな方法として知られています。しかし、以下のようなケースでは問題解決が難しくなる可能性があります。
・債務内容が任意整理の対象外である
・債権者側が任意整理に応じない
・和解成立後に、合意した返済計画を維持できなくなる
・個人再生や自己破産を避けたい理由から
・すでに借入先から差押えにあっている
これらのケースについて、具体的に見ていきましょう。
債務内容が任意整理の対象外である
任意整理が失敗する例として、「債務内容が任意整理の対象にならない」ケースが挙げられます。任意整理は、支払いが困難になった借金を解決する方法ですが、税金や社会保険料、損害賠償請求の未払い分は任意整理の対象外です。そのため、対象外の支払いについては、任意整理を行うこと自体ができません。
【任意整理ができない借金】
・税金関係
・所得税
・住民税
・固定資産税
・国民健康保険料
・年金保険料
・刑事上の賠償金
・罰金
・過料
・犯罪被害の損害賠償金
・悪意のある不法行為に基づく損害賠償金
・故意による交通事故の賠償金
・詐欺による損害賠償金など
【任意整理ができる借金】
・消費者金融からの借り入れ
・カードローン
・クレジットカード関連
・クレジットカードのショッピング払い
・クレジットカードのキャッシング
・リボ払い残債
・銀行系ローン
・銀行カードローン
・フリーローン
・マイカーローン(無担保の場合)
・信販会社からの借入
・個人向けローンなど
債権者側が任意整理に応じない
【個人の交渉に応じない貸金業者・金融機関の場合】
任意整理は、弁護士や認定司法書士の助けを借りずにご自身で行うこともできます。とはいえ、もし債権者が金融機関や貸金業者である場合、自分自身で交渉を行うと、相手方が応じない可能性があります。任意整理は裁判所を介さない債務整理であり、自己破産や個人再生に比べると書類作成などの手間は少なく、自分で行えば必要な費用も郵便代と印紙代程度に抑えられます。しかし、特定の金融機関や貸金業者では、個人との交渉に応じない方針を採っている場合もあります。このような場合、社内規定に基づくこともあります。また、自分自身で交渉を試みた結果、減額幅が期待したほど大きくない、或いは過払い金が戻ってこないといった不利な条件で和解が進められることも考えられます。
【弁護士が交渉しても任意整理に応じない貸金業者の場合】
弁護士に任意整理を依頼しても、交渉に応じない貸金業者が存在します。これらの業者は、法律の専門家である弁護士が交渉を行っても、任意整理には一切応じない方針であることがあります。また、奨学金(日本学生支援機構)についても、交渉に応じないことがあるため注意が必要です。そもそも、債権者が任意整理に応じることは法的に義務付けられていません。さらに、任意整理の過程では、債権者側にも返済状況の確認などの手間やコストがかかるため、交渉には応じず、訴訟を通じて借金を回収しようとするケースも見受けられます。
【お金を借りてから返済の履歴が少ない場合】
借入れ後、一度も返済を行っていない、もしくは返済の回数が非常に短い場合、債権者が任意整理の交渉を拒否する可能性があります。
例えば、 ・借入れをして以来、一度も返済していない ・借入れから短期間で任意整理を申し出た といった状況が該当します。このようなケースでは、支払能力が十分でないと見なされ、任意整理を行っても返済が不可能ではないか、あるいは最初から任意整理を計画して借り入れたのではないかと判断されることがあります。
和解成立後に、合意した返済計画を維持できなくなる
任意整理で和解が成立した後、合意した返済計画を守れなくなり、途中で返済ができなくなると、任意整理は失敗だったと言えるでしょう。任意整理後の支払いが遅れる場合、数日間の遅れであれば、借入先から電話や書面での督促が入ります。この段階で支払いを行えば、大きな問題にはなりません。しかし、2か月以上の滞納が続くと「期限の利益喪失」となり、一括請求書が内容証明郵便で送付される可能性があります。また、返済遅延に伴い、延滞金が加算されることもあります。このような状況になると、任意整理は失敗したと言えるでしょう。
任意整理では利息をカットすることが可能ですが、元金自体は過払い金がない限り減ることはありません。そのため、3年から5年間返済を続けられる収入や生活状況が大切になります。
個人再生や自己破産を避けたい理由から
自己破産や個人再生は、任意整理と比べて周囲に知られやすく、特に家族や勤務先への影響を懸念して選択をためらう方が少なくありません。しかし、そういった理由で現実的ではない返済計画のもと任意整理を選択すると、複数回の任意整理を強いられたり、最終的に自己破産に至るケースが多々見られます。この場合、任意整理の手続き費用が無駄になってしまいます。
任意整理を成功させるためには、3〜5年の返済期間を完遂できる安定した収入があるか、また生活状況に無理がないかを慎重に判断することが重要です。これらの見極めが不十分な場合、手続きが失敗に終わる可能性が極めて高くなります。
すでに借入先から差押えにあっている
債権者から差押えの強制執行を受けている状況では、任意整理での解決はまとまった金額を返済しない限り難しくなります。その理由は、強制執行により債権者は債務者の財産や給与から直接的に債権回収が可能となるため、債権者側に任意整理に応じるメリットがない為です。
なお、個人再生や自己破産の場合は強制執行を止めることができますが、任意整理にはそのような法的効力がありません。そのため、すでに強制執行が始まっている場合は、個人再生や自己破産など、他の債務整理の方法を検討する必要があるでしょう。
借金の金額が多すぎる
任意整理は、基本的に将来の利息を免除し設定された金額を3〜5年かけて返済する手続きです。したがって、元金(借金の残高)が非常に大きく、支払い可能な収入がない場合は、任意整理を行うことはできません。このため、「借金の元金を36回(3年)または60回(5年)で割った金額を毎月支払えるかどうか」が任意整理を行うかの重要な基準となります。もしも支払い額が3~5年内に返済できず、安定した収入が見込めない場合、任意整理は現実的な選択肢とは言えません。
【任意整理後の返済額の目安は以下の通りです】
●残高100万円の場合
・3年(36ヶ月)で返済する場合:月々27,777円
・5年(60ヶ月)で返済する場合:月々16,666円
●残高200万円の場合
・3年(36ヶ月)で返済する場合:月々55,555円
・5年(60ヶ月)で返済する場合:月々33,333円
●残高300万円の場合
・3年(36ヶ月)で返済する場合:月々83,333円
・5年(60ヶ月)で返済する場合:月々50,000円
将来の利息を支払う必要がないため、完済金額は軽減されます。ただし、確実に返済できる状況でなければ、任意整理は実行できません。収入が少ない、または借入額が過大な場合の解決策には、「個人再生」や「自己破産」が考えられます。
任意整理は、一定の収入さえあれば、職業による制限はありません。パートやアルバイトでも手続きが可能ですが、収入が安定していることが求められ、不安定な収入では手続きができない可能性があります。
任意整理の費用相場
任意整理は、弁護士もしくは司法書士が代理人となり、裁判所へ申し立てをせず債権者と直接交渉するため、裁判所費用はかかりません。
任意整理費用の内訳は、主に弁護士もしくは認定司法書士の費用になります。
任意整理は債権者数に応じて費用が異なりますが、他の債務整理と比べると安く手続きできると言えるでしょう。
【費用内訳と費用】
・相談料:1時間無料~1万円程度
・着手金:債権者1社で2万円~5万円
・報酬金:債権者1社で2万円
・減額報酬:減額した分の10%程度
・過払金報酬金:任意の場合は回収額の20%・裁判の場合は回収額の25%
・送金代行手数料:任意整理先1社で月額1,000円程度
・実費:交通費や宿泊費など事件処理のため実際にかかった経費
任意整理を弁護士・認定司法書士に相談・依頼した場合、借入先1社につき5〜10万円が費用の相場となります。借金の返済に困っている人にとっては、少なくない金額かもしれません。
任意整理にかかる費用は事務所の方針によって違いがあります。費用が安いや高いで判断するのではなく、あなたの意見に親身になって耳を傾けて、しっかりと対応をしてくれそうな事務所に依頼することで失敗しない任意整理に繋がると思います。
最後に
いかがでしたでしょうか?本記事では「任意整理とは」「任意整理ができる債務」「任意整理のメリット」「任意整理のデメリット」「任意整理が選ばれる理由」「任意整理があてはまる条件」「任意整理が難しいケース」「任意整理を失敗するケース」「任意整理の費用相場」という頻繁に検索されるテーマをまとめました。
任意整理は、他の債務整理方法と比べて手続きがシンプルで、周囲に知られにくいという特徴があります。ただし、注意すべき重要なポイントとして、3〜5年間にわたって毎月一定額の返済を継続する必要があります。
個人再生や自己破産を避けて安易に任意整理を選択するのは適切ではありません。それぞれの債務整理方法には、その人の状況に応じた適切な選択があります。
当法律事務所では、任意整理に関する質問や借金問題について、無料でご相談を承っております。借金に悩む皆様に寄り添い、親身になってお話を伺いながら、解決を目指します。どんな小さなことでも構いませんので、どうぞお気軽にお問い合わせください。