近年、経済状況の変動や不景気の影響を受け、多くの方が自己破産を選択するケースが増えています。自己破産は、債務者が裁判所に申し立てを行い、裁判所が認めることで、借金の全額または一部を免責される手続きです。しかし、自己破産を手続きするにはいくつかの条件があり、特に「免責不許可事由」に該当してしまうと、自己破産が認められない場合があります。
本記事で、免責不許可事由の正しい知識を得て、自分が該当するかどうか確認しておきましょう。

自己破産の基本条件

自己破産の申し立てにあたっての基本条件は以下の3つです。
1.支払不能状態であること
借金が返済できない状態、いわゆる支払不能であることが求められます。この状態は、単に収入が少ないだけでなく、生活費を差し引いた後に残るお金では借金が支払えない状況を指します。
2.破産手続きに必要な書類を提出すること
裁判所に提出する必要な書類(収支状況、資産状況、負債状況など)を正確かつ適切に準備することが求められます。
3.免責不許可事由に該当しないこと
免責不許可事由とは、自己破産の際、原則として裁判所が免責を認めないと法律で規定された事情です。

支払不能状態であること

自己破産を申し立てる際には、まず「支払不能であること」を裁判所に確認してもらう必要があります。
支払不能とは、すべての債権者(銀行やクレジットカード会社など)に対して、継続的に借金の返済ができない状態を指します。この支払不能の判断は、以下の流れで行われます。
1.借入総額を36ヵ月で割る。
2.手取り収入から必要な支出を引き、月々の返済可能額を算出する。
3.借入総額を36で割った金額が、月々の返済可能額を上回っているかを確認する。
一般的に、支払不能かどうかは、上記の3番目のステップで、借入総額を36で割った金額が月々の返済可能額を超えるかどうかで判断されます。つまり、現状の借入総額を3年以内に返済できるかどうかが一つの基準となります。
ただし、支払不能の認定は、この計算だけでなく、以下の要素も総合的に考慮されます。
・保有資産の価値と換金可能性
・収入状況
・年齢
・家族構成
・生活支出の適正さ
【重要なポイント】
• 売却可能な不動産や車両などの資産がある場合、その価値は借入総額から差し引かれます。
• 不要不急の支出(例:ゲーム課金)は、返済に充てられる余地があるとみなされます。
• 生活費は合理的な範囲内で査定されます。
このように、支払不能の判断は単純な計算式だけでなく、申立人の総合的な経済状況に基づいて行われます。

破産手続きに必要な書類を提出すること

■破産手続きに必要な主な書類について説明します。
・破産申立書:破産手続きを開始するための正式な書類です。自己破産の理由や申し立てをする債務者に関する情報を記載します。
・特定債権者一覧:主な債権者の情報をまとめたリストです。債権者の名称、住所、債務の内容や額面を詳細に記載します。
・財産目録:所有している財産を詳細に記載した書類です。不動産、預貯金、株式、その他の資産について具体的な情報を記載します。
・収支状況表:現在の収入と支出を示す書類です。月ごとの収入、生活費、その他の支出を明記します。
・本人確認書類:運転免許証やパスポートなど、本人を証明するための書類が必要です。
・住民票:現住所を証明するための住民票の写しを提出します。
・過去の財務諸表:法人の場合、過去数年分の決算書や財務諸表が必要となることがあります。
・その他の関連書類:借入契約書、保証人の承諾書、訴訟関連書類など、状況によっては追加の書類が求められることがあります。
これらの書類を整えたら、裁判所に破産の申立てを行います。手続きには弁護士を介して行うことが一般的で、専門的な知識が必要なため、相談することをお勧めします。注意しなければならないのは、書類の不備や不正確な情報が手続きに影響を及ぼす可能性があるため、正確に記入し、必要な書類を全て準備することが重要です。

免責不許可事由に該当しないこと

自己破産の目的は、裁判所から借金の返済義務を免除される「免責(許可)」を得ることです。ただし、破産と同時に免責を申請しても、「免責不許可事由」に該当する場合、免責が認められない可能性があります。
免責不許可事由とは、自己破産の際に原則として裁判所が免責を認めないと法律で定められている事情です。具体的には、以下のようなケースが該当します。
・債権者を害する意図で財産を隠す行為
・特定の債権者のみへの返済(偏頗弁済)
・ギャンブルやショッピング、株式投資、FXなどに多額の資金を使う行為
・自己破産を弁護士に依頼する直前に新たに借入を行う行為
・裁判所や破産管財人に対し、虚偽の情報を提供する行為
・前回の免責許可決定から7年以内に新たに免責を申請する行為
なお、これらの免責不許可事由に該当していても、深い反省の態度が認められるなど、裁判所が裁量に基づいて免責を認めるケースもあります。したがって、自己破産の手続きにあたっては、誠実に取り組むことが重要です。

免責不許可事由とは

法律において「免責不許可事由(めんせきふかじゆう)」として明示されているのは、免責が認められない事例です。裁判例で免責が認められると、貸し手(債権者)は貸したお金を回収できず、泣き寝入りを余儀なくされます。そのため、債権者にとって著しく不公平な状況では、裁判所は免責を認めないことがあります。
通常、自己破産の申立てを行うと借金の返済義務は免除されますが、債権者に対して乱暴な行為を行った場合など、特例として借金が免除されないこともあります。

免責不許可事由の種類

免責を認めないケース(免責不許可事由)は、破産法第252条1項に明記されています。

債務者による財産の不正な処分行為

債務者による不正な財産処分行為について
破産法第252条第1項第1号には、以下の行為が免責不許可事由として規定されています。
債権者を害する意図で、破産財団に属する、または属すべき財産を隠したり、損壊したり、債権者に不利益を与える処分を行うこと、その他破産財団の価値を不当に減少させる行為です。
• 財産の隠匿
• 財産の損壊
• 債権者に不利な形での財産処分
• その他、破産財団の価値を不当に減少させる行為
(引用:破産法第252条第1項第1号)
債権者に分配されるべき財産(破産財団)の価値を減少させる行為を行うと、免責を受けられないリスクが生じます。
一方で、債務者が自由に処分できる財産(自由財産)を処分したり、不注意によってその価値が損なわれたりしても、それは免責不許可事由には該当しません。
• 債務者の自由財産の処分
• 不注意による財産価値の減少
重要なポイントは、破産財団に属する(または属するべき)財産を、債権者を害する意図を持って処分することが問題となるという点です。

◆債務者の財産を不当に減少させる行為の例文は以下の通りです。
Aさんは自己破産を申請することを決め、その手続きが進行中の間に、所有していた高価な美術品を市場価格より著しく安い価格で友人に売却しました。この行為は、債権者に分配されるべき財産の価値を不当に減少させるものであり、破産手続きにおいて免責される可能性が低くなる恐れがあります。

※自己破産を行うと、通常、高額な資産は売却され、その売却益は債権者に公正に分配されます(これを「配当」と呼びます)。したがって、自己破産の手続きにおいては、一定の価値を持つ財産を手元に残すことはできません。
とはいえ、そのために誰かに自分の財産を安値で売ってはいけません。安く処分すると、本来債権者が受け取るべき配当が減少してしまいます。高価な資産は、破産手続きに従って適切に処分される必要があります。

不当な債務の拡大

破産法第252条1項2号には、次のような行為が免責不許可事由として定められています。
破産手続の開始を遅らせる目的で、極めて不利な条件での債務を負ったり、信用取引により商品を購入し、それを不利な条件で処分した場合です。
引用:破産法第252条1項2号
◆具体的には、以下のようなケースが「不当な債務負担行為」と見なされます。
・違法な高利貸しから融資を受けた
・クレジットカードのショッピング枠で新幹線のチケットやゲーム機を購入し、その後、購入価格より大幅に安い価格で売却した(換金行為)
一般的に、金融機関からの融資が難しくなった後に、こうした行為を行う人が多いです。
しかし、通常は借入限度額に達し、返済の見込みが立たない状況になった時点で破産を考えるべきです。
そのため、借入限度額に達した後にこれらの行為を行うと、「破産手続の開始を遅延させる目的」があったと判断されるリスクが高まります。

債権者への不公平な支払い行為

◆債権者への不当な支払い行為について
破産法第252条1項3号では、以下の行為が免責不許可の理由として明記されています。
特定の債権者に対して債務を履行する際、その債権者に特別な利益をもたらすため、または他の債権者に不利益を与える目的で、担保を供与したり債務を消滅させる行為を行った場合で、これが債務者の義務に該当しない、またはその方法や時期が債務者の義務に反するものであること。
引用:破産法第252条1項3号

◆特定の債権者に利益をもたらす支払い行為に関する例文は以下の通りです。
Aさんは、友人であるCさんから資金を借りており、その返済期限が近づいていました。一方、Aさんは他にも多くの借入があり、いくつかの債権者から督促を受けていました。しかし、Aさんは自己破産を考えているにもかかわらず、Cさんにだけ全額の返済を行いました。この行為は、特定の債権者であるCさんに対してのみ利益をもたらしているため、偏頗弁済に該当します。
このAさんの行為は、他の債権者を無視してCさんだけに優先して返済しているため、偏頗弁済(特定の債権者に対する優先返済)と見なされます。
すべての債権者は平等に扱われる必要があり、特定の債権者のみを優遇することは許されていません(これを「債権者平等の原則」と呼びます)。

浪費やギャンブルによる借金

◆浪費やギャンブルによる借金について
破産法第252条1項4号では、以下の行為が免責不許可事由として規定されています。
浪費やギャンブル、その他の射幸行為を行ったために、著しく財産が減少し、または過剰な債務を負担した場合。
引用:破産法第252条1項4号
※趣味や嗜好に対して収入を超える支出を行ったり、ギャンブルや投資によって多額の借金を抱えることになると、破産申立てがスムーズに認められない可能性があります。
免責不許可事由に該当する支出の程度は、収入や借金の総額などによって異なるため、専門の弁護士に相談することをお勧めします。

詐欺的手段を用いた信用取引

詐術(さじゅつ)を用いた信用取引
破産法第252条1項5号においては、特定の行為が免責不許可事由として規定されています。
具体的には、破産手続開始の申立ての1年前から破産手続開始の決定日までの期間中に、破産の原因となる事実を認識しながら、その事実が存在しないと信じ込ませるために詐術を用い、信用取引を通じて財産を得ることです。
引用:破産法第252条1項5号

たとえば、以下のケースが「詐術を用いた信用取引」に該当します。
■具体例1(収入に関する詐術) 年収300万円の会社員Aさんが、カーローンを組む際に年収800万円と偽って申告し、600万円の高級車を購入。その3ヶ月後に破産申立て。
■具体例2(職業に関する詐術) アルバイト従業員Bさんが、正社員と偽って複数のクレジットカードを作成。カード会社を次々と変えながら、キャッシング枠を使い果たした後、破産申立て。
■具体例3(借入状況の詐術) すでに500万円の借金があるCさんが、借入なしと偽って消費者金融から新たに300万円を借入。その2ヶ月後に破産申立て。
■具体例4(資産状況の詐術) 所有マンションがすでに任意売却予定だったDさんが、そのことを隠して自己所有の不動産があることを理由に100万円のローンを組み、その直後に破産申立て。
■具体例5(経営状況の詐術) 倒産寸前の個人事業主Eさんが、会社の業績が好調と偽って仕入れ業者から掛け売りで商品を大量発注し、その1ヶ月後に破産申立て。
これらの行為は、いずれも破産状態であることを認識しながら、それを隠して取引を行い、破産申立前1年以内に行われた場合に免責不許可事由となります。

帳簿を隠蔽する

帳簿の隠蔽
破産法第252条1項6号では、以下の行為が免責不許可の原因として明記されています。
業務や財産の状況に関する帳簿や書類、その他の物件を隠したり、偽造したり、改ざんしたりすること。
(出典:破産法第252条1項6号)
単に隠すだけでなく、自分に作成権限のない帳簿を作成することは文書偽造罪にも該当する可能性があるため、絶対に避けてください。

虚偽の債権者リストを提出する

虚偽の債権者リストの提出
破産法第252条1項7号では、以下の行為が免責不許可の理由として示されています。
虚偽の債権者名簿(第248条第5項の規定に従い債権者名簿と見なされる債権者一覧表を含む)を提出すること。
(出典:破産法第252条1項7号)
「債権者名簿」とは、自己破産申立ての際に提出しなければならない書類であり、債権者の名前や住所、借入年月、現在の残高、借入金の用途、最終返済日などの情報が記載されています。
この債権者名簿に虚偽の記載をすることは、「債権者平等の原則」が守られない可能性があるため、絶対に行わないでください。
また、特定の債権者を意図的に名前から外したり、架空の債権者を名簿に加えたりすることは、免責不許可の事由に該当します。

裁判所への説明を拒否したり、偽の説明を行ったりする行為

裁判所への説明を拒否したり、虚偽の説明を行う行為
破産法第252条1項8号では、以下の行為が免責不許可の理由として定められています。
破産手続きにおいて、裁判所が実施する調査に対し、説明を拒んだり、虚偽の説明を行ったりすること。
(出典:破産法第252条1項8号)
この点に関しては、数多くの免責不許可事由の中でも、免責が認められないリスクが特に高いものです。
裁判所や破産管財人の調査には誠実に協力し、絶対に虚偽や隠し事をしないように心掛けてください。

管財業務を妨げる行為

管財業務を妨害する行為について
破産法第252条第1項第9号では、次のような行為が免責不許可事由として明記されています。
不正な手段によって、破産管財人、保全管理人、またはその代理人の職務を妨害すること。
引用:破産法第252条第1項第9号
管財人などを脅迫する行為はもちろんのこと、管財人の指示に従わない場合も「管財業務を妨害する行為」と見なされる可能性があるため、十分に注意が必要です。

過去7年以内に免責を取得したことがある場合

過去の免責歴による制限について
破産法第252条1項10号により、以下の場合は新たな免責が認められません。
■免責が制限される場合
過去7年以内に免責を受けている
過去7年以内に免責と同等の法的保護を受けている
この制限は、破産制度の濫用を防ぎ、債務者の安易な破産申立てを抑制する目的があります。
つまり、一度免責を受けた後、最低7年間は新たな免責申請が原則として認められないことになります。このため、破産・免責の申立ては慎重に検討する必要があります。

破産法における義務違反の行為

破産法における義務違反行為について 破産法には、破産者に対して説明義務(第40条1項)、重要財産の開示義務(第41条)、免責調査に協力する義務(第250条2項)が定められています。これらの義務に違反する行為は、免責が認められない理由に該当します(第252条1項11号)。
■破産者の義務違反と免責制限 破産法では、破産者に以下の義務が課せられています:
・破産手続に関する説明義務(第40条1項)
・重要な財産についての開示義務(第41条)
・免責審査への協力義務(第250条2項)
これらの義務に違反した場合、破産法第252条1項11号に基づき、免責が認められない事由となります。つまり、破産による債務からの解放が認められなくなる可能性があります。

裁量免責

免責不許可事由に該当していても、裁判所の裁量によって免責が認められる「裁量免責(さいりょうめんせき)」という制度があります(破産法第252条2項)。そのため、悪質な例(※)を除けば、免責不許可事由が存在しても裁量免責によって免責が許可されるケースが多く見られます。
※意図的な財産隠蔽、裁判所への虚偽陳述、過去7年以内に免責を受けたことがある場合など
「免責不許可事由があるから自己破産はできないかもしれない」と不安に思っている方は、ぜひ一度、自己破産に関する知識と経験が豊富な弁護士に相談することをお勧めします。

免責にならない債権

免責にならない債権について
破産手続きで免責が認められても、一部の債務は支払い義務が継続します。これらは「非免責債権」と呼ばれ、以下のような債権が該当します。
【支払い義務が残る主な債権】
公的な支払い:• 各種税金 • 国民健康保険料 • その他公租公課
法的制裁に関する支払い:• 罰金 • 故意による不法行為の損害賠償金
家族関連の支払: • 配偶者への生活費 • 子どもの養育費
その他:• 意図的に債権者名簿から除外した債権
これらの債権は、破産免責が認められた後も、引き続き支払い義務が発生します。

裁量免責が適用されず、免責が認められない際の対処法

もし免責が認められない結果となった場合は、以下の対策を検討します。いずれの方法を選択する場合でも、自己破産に関する知識が豊富な弁護士に相談することをお勧めします。

即時抗告をおこなう

免責が認められなかった場合、その決定に不服がある場合は異議申立て(「即時抗告」と呼ばれます)を行うことが可能です。免責不許可の決定は、裁判所から破産者に通知されます(破産法第252条4項)。即時抗告を行うには、決定が通知された日の翌日から1週間以内に手続きを済ませる必要がありますので、ご注意ください。
■即時抗告の手続きの流れは以下の通りです。
・裁判所から破産者へ免責不許可決定が送達されます(破産法第252条4項)
・決定送達日の翌日から1週間以内に即時抗告を提起する必要があります。
※明らかに免責不許可理由が存在する場合には、即時抗告を行っても決定が覆る可能性が非常に低くなるため、その際には個人再生を選ぶことを検討してみてください。

個人再生の手続

破産で免責を受けられないと判断された際は、代替手段として個人再生手続の利用を検討できます。個人再生には免責不許可事由の定めがないため、破産が認められなかった方でも申立が可能です。
ただし、個人再生では債務の一部減額後、通常3年から最長5年の返済計画に従って支払いを継続する必要があります。そのため、安定した収入源があり、定期的な返済が可能な経済状況でなければ、個人再生の申立は難しいでしょう。

最後に

いかがでしたでしょうか?この記事では、「自己破産の基本条件」「免責不許可事由とは」「免責不許可事由の種類」「裁量免責」「免責にならない債権」「裁量免責が適用されず免責が認められない場合の対処法」について詳しく解説しました。
自己破産は非常に複雑な手続きであり、裁判所から「免責(許可)」が得られないケースもあります。当法律事務所では、法人破産から個人の自己破産手続きまで幅広く対応しております。自己破産を考えている方や、弁護士をお探しの方はお気軽にお問い合わせください。相談料は一切かかりませんので、貴重な相談時間を有意義にご活用ください。